【ベジタリアンを知る vol.20】ベジタリアニズムと宗教(1)
*この投稿は以前発刊していた会報誌『月刊つぶつぶ』より連載シリーズ「ベジタリアンを知る」から一部編集して掲載しています。連載一覧はこちら
執筆:NPO法人日本ベジタリアン協会代表 歯学博士 垣本 充
ベジタリアニズムの理念は「生命の尊厳」ですが、そのルーツについては紀元前7世紀の宗教的な背景を持つインドや、紀元前5世紀の倫理的背景を持つギリシアであると連載の第1回で解説しました。
このように、ベジタリアニズムは宗教や倫理と関係しています。英国ベジタリアン協会(VSUK)が、菜食やベジタリアニズムの全容を網羅した全4巻からなる『Vegetarian Issues』(初版1992年)を出版しています。その第1巻「ベジタリアニズムと動物愛護、倫理、宗教」の宗教に関する章には、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教、ジャイナ教、仏教、ヒンドゥー教などの各宗教が紹介されています。
今回は、ベジタリアニズムと宗教の関係をリサーチした連載(1)として、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教を取り上げたいと思います。
キリスト教
キリスト教はヨーロッパ、北南米、アジア、アフリカなどで約20億人の信者がいるとされています。
キリスト教はカトリック教会とプロテスタント教会、また、正(オーソドックス)教会、聖公会などに分類されます。一般的に食べてはいけない食物はありませんが、カトリック教会や正教会などでは、時期によって肉食を控えるなどの慣行があります。
ただし、キリスト教の初期である1~2世紀までは、キリスト教に肉食忌避の傾向が認められます。これは古代ギリシア哲学(倫理学)が影響したと考えられますが、この原始(初期)キリスト教の教えに基づき、カトリック教会の中には、シトー派やカルトジオ派など現在でも修道士はビーガンで完全菜食を行うグループが存在します。
一方、プロテスタントの中には、原始キリスト教のシンプルライフへの憧憬から19世紀に近代菜食主義運動を起こし、市民団体として英国ベジタリアン協会や後に英国ビーガン協会を誕生させました。また、その後、米国で創立されたセブンスデー・アドベンチスト教会は卵乳菜食を推奨しています。
ユダヤ教
イスラエルや米国を中心に、およそ約1400万人の信者がいるとされています。
ユダヤ教は、旧約聖書の「レビ記」の記述に基づいた食事規定を有していて、食べてもよいものは「コーシャ」と呼びます。コーシャ認証機関が存在し、認められた食品や飲食店にはコーシャマークが付与されます。肉で食べてよいのは蹄が分かれた反芻動物、鱗のある魚も摂食が許されます。また、乳製品と肉を一緒に料理することを禁じています。彼らの中には肉を一切食べない人がいて、コーシャ・ベジタリアンと呼ばれますが、魚を食べるペスコ・ベジタリアンもいると言われます。
イスラム教
中東、アフリカ、アジアを中心に、およそ約16億人の信者がいるとされています。
イスラム教は、シャリア法というイスラム教の法令によって、食べてよいものと、食べてはいけないものを分けています。このうち、食べてよいものを「ハラル」と呼び、どのような食べ物がハラルに該当するかを細かく定めています。ハラル性を審査する認証機関が存在し、ハラルと認められた食品や飲食店にはハラル認証マークが付与されています。
食べてはいけない代表的な食品は、豚肉とアルコールですが、遺伝子組み換え食品もハラルではありません。野菜類のほか、魚介類も基本的にハラルとされています。ベジタリアンと共通した点が多く、ハラル認証はベジタリアンにも活用されています。
次号、ベジタリアニズムと宗教の連載(2)では、仏教、ジャイナ教、ヒンドゥー教を取り上げたいと思います。
NPO法人 日本ベジタリアン協会
日本ベジタリアン協会は、1993年4月設立、2001年2月に特定非営利活動法人(NPO法人)の認証を受けた非営利団体です。「人と地球の健康を考える」をテーマに菜食とそれに関連した健康、栄養、倫理、生命の尊厳、アニマルライツ、地球環境保全、発展途上国の飢餓などの問題に関する啓発や奉仕を目的とし、菜食に関心のある人々に必要な知識や実践方法を広め、共有していくためのネットワークづくりを行なっています。
HP:http://www.jpvs.org/