【ベジタリアンを知る vol.1】グローバルな視点からみた「ベジタリアンの歴史」
*この投稿は以前発刊していた会報誌『月刊つぶつぶ』より連載シリーズ「ベジタリアンを知る」から一部編集して掲載しています。連載一覧はこちら
執筆:NPO法人日本ベジタリアン協会代表 歯学博士 垣本 充
アインシュタインやライナス・ポーリングなどのノーベル賞受賞者から、マドンナ、キャメロン・ディアス、ポール・マッカートニーまで、各界の著名人がメディアでベジタリアンと紹介されて話題となっています。
さて、ベジタリアンのルーツは何処でしょうか?インド、英国、中国・・・?
紀元前7世紀頃からインドでは宗教上の戒律から肉食を忌避する菜食が行われていたと云われます。インドのベジタリアンといえば、独立運動の父、マハトマ・ガンジーに代表されるヒンドゥー教徒がよく知られていますが、歴史を遡れば、紀元前7~5世紀にインドで栄えたジャイナ教や仏教が動物の殺生を禁じる「アヒンサー」(サンスクリット語で非暴力、不殺生)の教義を広め、それがヒンドゥー教に影響を与えたようです。
仏教はインドから西域を経て中国に伝わり、6世紀の初めには禅宗が開かれ、精神修養の手段として菜食が取り入れられました。その仏教思想が日本に伝わり、菜食は精進料理という形式で現存しています。
一方、西洋では紀元前5世紀頃、古代ギリシア時代にベジタリアニズムが流布されていたと云われます。この西洋における菜食主義は「生命の尊厳」という倫理的な背景をもつもので、古代ギリシアの著名な数学者であり哲学者でもあるピタゴラスは、彼の弟子とともにベジタリアン集落を設立し、倫理的思想に基づいた菜食による共同生活を実践しました。キリスト教も誕生初期である1~2世紀まで、ギリシア哲学の影響を受けて肉食忌避の傾向が認められます。
18~19世紀、フランスの思想家ルソーやロシアの文豪トルストイなどが、初期キリスト教への憧憬から菜食を行ったように、19世紀半ばに起こったイギリスでの近代菜食主義運動は初期キリスト教の「シンプル・ライフ」への回帰思想が影響していると思われます。そのような流れの中、1847年、英国で市民団体として世界最初の英国ベジタリアン教会(VSUK)が創設されました。
1889年にはベジタリアン連盟(VFU)が設立され、これが1908年に国際ベジタリアン連合(IVU)と改称し、現在、世界各国にあるベジタリアン団体の統括機関としての役割を担っています。
1944年には英国ビーガン(純粋菜食者)協会が設立され、1960~70年代には米国で「愛と平和」を訴えて登場したヒッピーが地球の飢えた人たちを救うという目的でベジタリアンの生活を始め、さらに、1980年代には、健康や環境、動物愛護などの理由からベジタリアンのライフスタイルを選ぶニュー・ベジタリアンと呼ばれる人たちが登場しました。
1993年には市民団体として日本ベジタリアン協会が設立され、IVUに加盟して国の内外で菜食の啓発活動を行っています。
このように既成の宗教や倫理的背景を持つものではなく、健康、エコロジー、食料問題、途上国援助など、様々な理念や信条を取捨選択しながら発展した「ライフスタイルとしての菜食」が市民レベルで定着し、現在に至っています。
NPO法人 日本ベジタリアン協会
日本ベジタリアン協会は、1993年4月設立、2001年2月に特定非営利活動法人(NPO法人)の認証を受けた非営利団体です。「人と地球の健康を考える」をテーマに菜食とそれに関連した健康、栄養、倫理、生命の尊厳、アニマルライツ、地球環境保全、発展途上国の飢餓などの問題に関する啓発や奉仕を目的とし、菜食に関心のある人々に必要な知識や実践方法を広め、共有していくためのネットワークづくりを行なっています。
HP:http://www.jpvs.org/