【ベジタリアンを知る vol.21】ベジタリアニズムと宗教（２）

＊この投稿は以前発刊していた会報誌『月刊つぶつぶ』より連載シリーズ「ベジタリアンを知る」から一部編集して掲載しています。連載一覧はこちら

執筆：NPO法人日本ベジタリアン協会代表 歯学博士 垣本 充

ベジタリアニズムの理念は「生命の尊厳」ですが、そのルーツについては紀元前7世紀の宗教的な背景を持つインドや、紀元前5世紀の倫理的背景を持つギリシアであると解説し、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教を取り上げました。

今回は、ベジタリアニズムと宗教の関係をリサーチした連載(2)として、ジャイナ教、ヒンドゥー教、仏教を取り上げたいと思います。

ジャイナ教

ジャイナ教はインド古来の宗教で、紀元前7世紀頃に始まったとされています。その後紀元前6～5世紀に24代教主マハビラが「アヒンサー」(サンスクリットで動物を殺さずの意)をスローガンとして掲げ、ベジタリアニズムの根源となる教義のもとに布教を行いました。まさにベジタリアニズムの宗教的なルーツと言えるでしょう。

現在、インドを中心に約420万人の信者がいるとされています。ジャイナ教は徹底した不殺生を教義としており、肉、魚介類、卵を食べるのを禁じるだけでなく、その修行者は虫を踏みつぶさないよう歩くと言われています。野菜でも、収穫の際に土中の生物を殺してしまうのを避けるために根菜類を食べません。

ヒンドゥー教

マハトマ・ガンジーが敬虔なヒンドゥー教徒であったので、ヒンドゥー教は菜食のルーツのように思われていますが、そうではなく、古代ヒンドゥー教のバラモン教が紀元前5世紀ごろにジャイナ教や仏教の殺生禁断の教義を取り入れたと言われます。ヒンドゥー教は牛を聖獣としているため、牛肉を食べません。

しかし、彼らの中には、全く畜肉、魚貝、卵やアルコールを摂取しない人たちから、鶏肉や羊肉を食べる人たちまで幅広い食の形態が見られます。

以前、インドから来日された大阪大学客員教授を取材した際に、私たちは菜食を意識しているのではなくてヒンドゥー教食を行っていると言われました。

彼の母親はビーガンですが、彼や父親は鶏肉を食べると言っていました。ただ、ほとんどの信者は乳製品を摂るので乳卵菜食が多く、信者はインド国内だけで8億人を超えるとされており、乳製品を重視するインドの食事目標に大きな影響を与えています。

仏教

東アジア、東南アジア、中央アジアを中心に、約4.6億人の信者がいるとされています。

中国・台湾・ベトナムなどの大乗仏教では、僧侶や信者の動物性食品摂取や飲酒を禁じています。また、野菜の中でも五葷(くん) 呼ばれるネギ科の野菜(ニラ、ニンニク、ラッキョウ、ネギ、玉ネギまたはアサツキ)を食べることを禁じています。

現在でも、中国や台湾の僧侶や熱心な信者は、この戒律を守って生活しています。これは、アジアンあるいはオリエンタル・ビーガン(東洋型純菜食)の特徴とされています。

仏教はインドから西域(チベット)を経て中国に伝えられ、6世紀の初め達磨大師によって禅宗が開かれ、精神修養の手段としてベジタリアニズムが取り入れられました。現在、この菜食は「素食」として定着しています。

その後、日本に伝わり、仏教思想を背景とした精進料理という独自の菜食文化を開花させました。ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」の原点は禅宗の修行食である懐石料理とされています。

英国ベジタリアン協会(VSUK)出版の『Vegetarian Issues』全4巻の第１巻の「ベジタリアニズムと宗教」の章には、肉食を忌避する宗教として、シーク、バハイ、ラスタファリ、ハレ・クリシュナなどが紹介されています。次回は、これらの宗教のほか、宗教と倫理の中間に位置すると言われる道教について解説したいと思います。

NPO法人 日本ベジタリアン協会
日本ベジタリアン協会は、1993年4月設立、2001年2月に特定非営利活動法人（NPO法人）の認証を受けた非営利団体です。「人と地球の健康を考える」をテーマに菜食とそれに関連した健康、栄養、倫理、生命の尊厳、アニマルライツ、地球環境保全、発展途上国の飢餓などの問題に関する啓発や奉仕を目的とし、菜食に関心のある人々に必要な知識や実践方法を広め、共有していくためのネットワークづくりを行なっています。
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