【ベジタリアンを知る vol.27】砂糖の過剰摂取とアレルギーや認知症の関係
*この投稿は以前発刊していた会報誌『月刊つぶつぶ』より連載シリーズ「ベジタリアンを知る」から一部編集して掲載しています。連載一覧はこちら
執筆:NPO法人日本ベジタリアン協会代表 歯学博士 垣本 充
脳と腸の関係
前回、砂糖の摂り過ぎが老化を促進する話をしました。老化と関係する糖化は、糖がタンパク質に結合して身体機能を低下させる老化現象です。その時、産生するAGEs(終末糖化産物)の毒性が細胞を傷つけ、老化を早める原因物質とされています。
砂糖に含まれる果糖の糖化作用はブドウ糖の約10倍で、果糖を含む砂糖はこの糖化を促進させやすい傾向があるのです。
今回は、老化と関係する認知症と砂糖の関係について解説したいと思いますが、その前に、脳と密接な関係がある腸について調べてみました。
腸の働きは、タンパク質や炭水化物、脂肪などが消化酵素によって分解された栄養素を吸収する器官だと思われていませんか?勿論、そのような生理機能を持っているのですが、それ以外の重要な機能として、外敵から病原体の侵入を防止する免疫機能を持っています。
腸には口から体内に入る栄養素のほかに、細菌やウィルスなどの病原体が入ってきます。このような病原体の侵入を食い止める免疫作用は腸の大切な生理機能なのです。そのような訳で、免疫細胞の約6割が腸内に存在します。また、最近、精神疾患と腸内フローラとは何らかの関係を持つという研究があります。
小腸から大腸にかけて600兆個以上の多様な腸内細菌が生息していて、これらの細菌が種類ごとにグループを形成して腸の壁面に生息しています。これを顕微鏡で観察すると植物の群生(フローラ)のように見えることから、腸内フローラと呼ばれるようになりました。
腸内細菌には、ウィルスなどの外敵と戦う免疫細胞のリンパ球やマクロファージを増産する乳酸菌に代表される善玉菌と、発がん物質などの有害物質を産生するウェルシュ菌に代表される悪玉菌などが存在します。
雑穀に含まれる食物繊維は大腸内で発酵分解されると、ビフィズス菌など善玉菌が増えて腸内環境がよくなる整腸効果があります。
一方、消化吸収できる量を超えた砂糖の過剰摂取は腸壁を膨張させ、透過性を高めてアレルゲン物質を吸収しやすくし、ひいてはアレルギーを発症します。また、吸収出来なかった砂糖によって大腸内の浸透圧が高まり、腸内での水分吸収が阻害されて腸内浸透圧が高まり、腸内フローラのバランスが崩れた腸内環境になってしまいます。
砂糖とアレルギー、認知機能の関係
2015年にオレゴン州立大学のマグヌッソン教授が米国ニューロサイエンス(神経科学)誌に発表した論文によると、マウスに4週間にわたり高砂糖食を与えた結果、種々の認知的および身体的機能のパフォーマンス低下が認められました。
そのうち、最も顕著だったのは認知的柔軟性と呼ばれる能力の低下でした。認知的柔軟性とは、知識のネットワーク状の相互関係を理解する能力です。よく通いなれた帰宅の道を迷って帰れなくなるのもこの能力の低下だと言われます。
教授は
「腸内細菌が脳とコミュニケーションしていることがますます明らかになってきている。本研究は砂糖の過剰摂取が腸内細菌に影響し、細菌は神経伝達物質として作用する種々の化合物を放出することができ、知覚神経を刺激したり、免疫系を刺激したり、さらに多くの生体系に影響を与えることができる。我々にはどんなメッセージが送られているのかは分からなくても、送られてきた経路とその効果は特定可能である。」
と記し、砂糖の過剰摂取は、認知機能の柔軟性(状況変化に対処する能力)を有意に失わせるような腸内細菌の変化を起こす原因となるようだと結論付けました。
砂糖が腸内フローラへおよぼす悪影響は、免疫と関係するアレルギーだけではなく、認知機能の低下にも関係するのです。
この研究は砂糖の過剰摂取があなたの健康的な腸内細菌のシステムを変え、それが脳の機能にも影響を与えていることを示唆しているのです。
NPO法人 日本ベジタリアン協会
日本ベジタリアン協会は、1993年4月設立、2001年2月に特定非営利活動法人(NPO法人)の認証を受けた非営利団体です。「人と地球の健康を考える」をテーマに菜食とそれに関連した健康、栄養、倫理、生命の尊厳、アニマルライツ、地球環境保全、発展途上国の飢餓などの問題に関する啓発や奉仕を目的とし、菜食に関心のある人々に必要な知識や実践方法を広め、共有していくためのネットワークづくりを行なっています。
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