【ベジタリアンを知る vol.22】ベジタリアニズムと宗教（３）

＊この投稿は以前発刊していた会報誌『月刊つぶつぶ』より連載シリーズ「ベジタリアンを知る」から一部編集して掲載しています。連載一覧はこちら

執筆：NPO法人日本ベジタリアン協会代表 歯学博士 垣本 充

ベジタリアニズムの理念は「生命の尊厳」ですが、そのルーツについては紀元前7世紀の宗教的な背景を持つインドや、紀元前5世紀の倫理的背景を持つギリシアであり、「ベジタリアニズムと宗教」の連載(1)としてキリスト教、ユダヤ教、イスラム教、連載(2)としてジャイナ教、ヒンドゥー教、仏教を取り上げました。

今回は連載(3)として、宗教と倫理の中間的な位置に在ると言われる道教に加えて、英国ベジタリアン協会(VSUK)出版の『Vegetarian Issues』第１巻の「ベジタリアニズムと宗教」の章に肉食を忌避する宗教として記載される、シーク教、ラスタファリ、ハレ・クリシュナ、バハイ教などについて解説したいと思います。

道教（タオイズム）

道教は中国で発祥した古来のシャーマニズム的呪術信仰を基盤とする民間信仰です。中身は儒教や仏教の思想、陰陽・五行説、易学など非常に多彩で、さらに、その道教の影響を受けた民俗文化や信仰が広く流布されています。日本では平安時代に陰陽道や風水など、江戸時代には倫理道徳として捉えた朱子学などに影響を与えました。

現在、中国や台湾を中心に約330万人の信者がいるとされています。道教と関係する菜食として代表的なものが台湾素食です。台湾素食は植物性食品のみを食べるビーガンです。台湾素食の特徴は「もどき料理」にあります。大豆タンパクや麩などのグルテン、こんにゃく、湯葉などを用いて肉や魚介の食感を巧みに表現します。

シーク教

シーク教は15世紀にインドで誕生した宗教で、ヒンドゥー教とイスラム教を融合したものと言われます。インドの現地映像でターバンを頭に巻いた男性はシーク教徒です。インドを中心に英国や米国にも信者がいて、全世界で3000万人の信者がいるとされています。
信者はヒンドゥー教と同様に牛肉を食べません。菜食をこの世の暴力を軽減するための手段とみなし、シーク教寺院で供される料理は菜食です。

ラスタファリ

1930年にジャマイカで誕生した宗教的思想運動でアフリカ回帰を唱えています。英国ベジタリアン協会の資料によれば、ビーガンですが、乳類の摂取については不明としています。信者数は不詳ですが、ジャマイカのみでなく、米国、カナダへと広がりを見せています。

ハレ・クリシュナ

インド神話のクリシュナを最高神とする宗教で、1966年にニューヨークでクリシュナ意識国際協会が設立されました。シンプルライフや非暴力を謳う教義は60年代末の欧米ロック・ミュージシャンに大きな影響を与えました。以前、ニューヨークのベジタリアン料理店でハレ・クリシュナ関係のヨガ教室の案内パンフレットを見たことがあります。食アップルのCEOだった故スティーブ・ジョブズが経済的に苦労していた若かりし頃、ハレ・クリシュナ教会が提供する食事の世話になったことでも、この宗教は有名になりました。英国ベジタリアン協会の資料によれば、あらゆる畜肉、魚介、卵などを食べないビーガンのほかに、乳類は食べるラクト・ベジタリアン(乳菜食)がいるようです。

バハイ(バハーイー)教

バハイ教は、19世紀半ばにイランでイスラム改革のバーブ教から派生した宗派です。バハイ教は信者に菜食を強制してはいませんが、聖典の中では「人はいずれ果物と穀物だけを食べるようになる。肉を食べなくなる時代が来る」と記されています。信者数は500万人とされています。

以上、菜食と関係する宗教として、英国ベジタリアン協会の資料に紹介されていた宗教を中心に取り上げました。

NPO法人 日本ベジタリアン協会
日本ベジタリアン協会は、1993年4月設立、2001年2月に特定非営利活動法人（NPO法人）の認証を受けた非営利団体です。「人と地球の健康を考える」をテーマに菜食とそれに関連した健康、栄養、倫理、生命の尊厳、アニマルライツ、地球環境保全、発展途上国の飢餓などの問題に関する啓発や奉仕を目的とし、菜食に関心のある人々に必要な知識や実践方法を広め、共有していくためのネットワークづくりを行なっています。
HP：http://www.jpvs.org/