【ベジタリアンを知る vol.18】「肉で長生き」の根拠が40年以上前の大豆のアミノ酸スコア？
—米国RD(登録栄養士)も失笑！大豆のアミノ酸スコアは100—

2022/07/12
食の知識, ベジタリアンを知る

＊この投稿は以前発刊していた会報誌『月刊つぶつぶ』より連載シリーズ「ベジタリアンを知る」から一部編集して掲載しています。連載一覧はこちら

執筆：NPO法人日本ベジタリアン協会代表歯学博士垣本充

ベジタリアンは質・量ともにタンパク質を充足

かつて、菜食はタンパク質不足を招くと言われことがあります。これは全く間違った説で、動物性も、植物性も、タンパク質は20種類のアミノ酸で出来ていて、そのうち9種類のアミノ酸(トリプトファン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン)は体内でつくられないので食事で摂る必要があり、これらを必須アミノ酸と呼んでいます。

食品中のタンパク質の質的な評価基準として、アミノ酸スコアがあります。タンパク質を体内で利用するには必須アミノ酸が不可欠で、それらが全てバランスよく存在する場合はアミノ酸スコアが100と表示されます。

ベジタリアンは質・量ともにタンパク質を充足しています。2009年には、米国栄養士会が「適切に献立された菜食(ビーガンを含む)はある種の病気の予防だけではなく治療にも有効である。また、入念に計画された菜食は、妊娠・授乳期、乳幼児期から老齢期までの全てのライフサイクルで栄養的に適切である」と菜食を科学的に支持する論評を米国栄養学会誌(JADA)に公表しています。このような菜食に関する現代栄養学の知識はアメリカ、カナダを中心として、EU各国にも波及しています。

ところが、わが国ではどうでしょうか？

いまだに、化石化した情報が流布される状況

2016年6月10日発売の雑誌『サライ』(小学館)では、「肉で長生き」という特集が組まれていて、「肉食の利点は、そのアミノ酸スコアである。アミノ酸スコアとはアミノ酸の構成がどのくらい人間に近いかを表す数値で、100に近いほど必須アミノ酸のバランスがよく、良質とされる」とあり、さらに、(中略)「肉や魚を(アミノ酸スコア)100とすると大豆でも、86、精白米は64にしかすぎません」と記述されています。

最新栄養学を習得した米国のRD(登録栄養士)にこの雑誌の記事の内容を話すと「ありえない」と失笑されてしまいました。

この大豆のアミノ酸スコア86という数値は、WHO(世界保健機関)とFAO(国連食料農業機関)が1973年、今から43年前に算定した数値で国際的には化石のようなものです。その後、より改良が加えられて、1985年にWHO・FAOとUNU(国連大学)によって、大豆や豆腐のアミノ酸スコアは100と算定され、1989年に三つの国際団体で再度検討会議が開かれ、1985年の基準値が適切であるという再確認がされています。最も新しい2007年のWHO・FAO・UNU報告でも、大豆や豆腐は100の値とされています。

ちなみに、鶏卵などと共に、豚肉、鶏肉のアミノ酸スコアは100ですが、牛肉は98とされ、先の論理で言えば、大豆や豆腐の方が牛肉より良質のタンパク質を含むことになります。

また最近、テレビでオメガ脂肪酸の一種であるアラキドン酸は畜肉などの動物性食品に含まれていて、これを摂らなければ認知症になりかねないと言うような広告が放送されていますが、大脳の神経細胞が減るのは炎症などに原因があって、アラキドン酸欠乏によるものではないことが明らかにされつつあります。

アラキドン酸はリノール酸から体内でつくられますし、ベジタリアンで植物油の主成分であるリノール酸を欠乏している人はまずいません。また、魚油の成分で血栓の形成や動脈硬化予防効果で注目されているEPA、DHAは亜麻仁油などの植物油由来のα－リノレン酸から体内でつくられます。

いずれ、このような古い不正確な情報は淘汰されて行くのでしょうが、いまだに、化石化した情報が流布されるのは困ったものです。

NPO法人日本ベジタリアン協会
日本ベジタリアン協会は、1993年4月設立、2001年2月に特定非営利活動法人（NPO法人）の認証を受けた非営利団体です。「人と地球の健康を考える」をテーマに菜食とそれに関連した健康、栄養、倫理、生命の尊厳、アニマルライツ、地球環境保全、発展途上国の飢餓などの問題に関する啓発や奉仕を目的とし、菜食に関心のある人々に必要な知識や実践方法を広め、共有していくためのネットワークづくりを行なっています。
HP：http://www.jpvs.org/