【ベジタリアンを知る vol.9】雑穀がカギ? 究極のビーガン食「未来食つぶつぶ」
*この投稿は以前発刊していた会報誌『月刊つぶつぶ』より連載シリーズ「ベジタリアンを知る」から一部編集して掲載しています。連載一覧はこちら
執筆:NPO法人日本ベジタリアン協会代表 歯学博士 垣本 充
究極のビーガン食「未来食つぶつぶ」
マクロビオティックを基礎にして創られた「未来食つぶつぶ」は究極のビーガン食と呼ばれています。この「未来食つぶつぶ」は雑穀米を主とした雑穀菜食の一種ですが、今回はこの雑穀に焦点を当ててみたいと思います。
日本雑穀協会の資料によれば、雑穀はイネ科作物のうち小さい頴果(えいか:イネ科植物に見られる果実)をつける、稗(ヒエ)、粟(アワ)、キビなどの総称で、英語でmilletと訳される穀物です。菽穀(しゅくこく)は豆類、擬穀(ぎこく)は蕎麦、アマランサス、キノアなどを示しています。しかし、雑穀は時代背景や主食の変化につれ、その捉え方も変わってきています。
現代の日本人の主食は白米であり、稗、粟、キビ、モロコシ、ハトムギ、大麦などイネ科作物の他、イネ科以外の蕎麦、アマランサス、キノア、胡麻に加え、大豆や小豆などの豆類、また、普段食される機会の少ない玄米や発芽玄米も広く雑穀に含めると記されています。
今から二十数年前、1988年に米国ミネソタ大学で開催された国際会議(IFFE)で「食物繊維の齲蝕(うしょく、虫歯)予防効果」の研究発表をする機会を得て渡米しました。当時、米国では生活習慣病が社会問題化していましたが、そのきっかけになったのは、1977年に発表された「マクガバン・リポート」でした。
このリポートでは、心筋梗塞などの生活習慣病は肉食中心の高カロリー、高脂肪の食生活がもたらしたもので、動物性食品を減らして未精製の穀物や野菜、果物を多く摂るように勧告しています。その食事パターンが日本食と似ていたので、この国際会議に出席する栄養学者も日本食を評価してくれると思っていたのですが、米国の専門家のコメントは、このリポートはたまたま日本食と似ているだけで、日本食は食塩量が多く、全く別物だと言われました。この時はうまく反論出来なかったのですが、後年、この学者は栄養素などの摂取量(数値)だけを問題にしていたのだと気付きました。
現在の日本人の栄養・健康で問題にされているのは、確かに食塩の多量摂取です。厚生労働省の国民健康•栄養調査(2012年)によれば、日本人は食塩を一日当たり平均10.4g摂っていて、これは諸外国と比べても多い数値で、厚生労働省では成人男子8g、女子7g未満を目標値とし、WHO(世界保健機関)では5g未満を推奨しています。
食塩(塩化ナトリウム)が高血圧と関係する要素はナトリウムです。ナトリウムは血管を収縮させ、血液中の水分量を増加させます。細くなったホースに多くの水を送るような現象によって血管の圧力は高まり、このような食生活を続けることで高血圧を発症させるリスクが高まるのです。一方、カリウムは体内の余分なナトリウムと結びついて体外に排泄する作用があり、血圧の上昇を抑えます。
そこで、雑穀100gに含まれるカリウム(K)とナトリウム(Na)の量(㎎)を五訂補日本食品成分表(2010年)で調べてみました。アマランサス(K:600,Na:1)、モロコシ(K:590,Na:2,)、粟(K:280,Na:1)、キビ(K:410,Na:2)、稗(K:240,Na:3)で、括弧内はカリウムとナトリウムの㎎数を表しています。
米国は2002年の食事勧告で、高血圧を予防し治療する方法として国民高血圧教育プログラム共同委員会がカリウムの補給の強化を提案し、カリウムとナトリウム摂取比率(K/Na比)を、これまでの基準であった0.2から2へと10倍に大きく変更させることを勧告しました。
雑穀のK/Na比は、アマランサスで600、モロコシ295、粟280、キビ210、稗80と驚くような大きな数値で、日本食の弱点とされた食塩中のナトリウムの摂りすぎに雑穀のカリウムが有効に作用して、高血圧を予防することが明らかにされました。
「未来食つぶつぶ」が究極のビーガン食と呼ばれる理由の一つには、雑穀に多く含まれるカリウムの存在があると思われます。
NPO法人 日本ベジタリアン協会
日本ベジタリアン協会は、1993年4月設立、2001年2月に特定非営利活動法人(NPO法人)の認証を受けた非営利団体です。「人と地球の健康を考える」をテーマに菜食とそれに関連した健康、栄養、倫理、生命の尊厳、アニマルライツ、地球環境保全、発展途上国の飢餓などの問題に関する啓発や奉仕を目的とし、菜食に関心のある人々に必要な知識や実践方法を広め、共有していくためのネットワークづくりを行なっています。
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