【ベジタリアンを知る vol.8】マーガリンが動脈硬化誘発? トランス脂肪酸問題
*この投稿は以前発刊していた会報誌『月刊つぶつぶ』より連載シリーズ「ベジタリアンを知る」から一部編集して掲載しています。連載一覧はこちら
執筆:NPO法人日本ベジタリアン協会代表 歯学博士 垣本 充
トランス脂肪酸問題
現代医学では脂肪(脂質)に関して、動物脂に含まれるパルミチン酸やステアリン酸などの飽和脂肪酸の摂取過剰が血中の悪玉(LDL-)コレステロール値や中性脂肪値を上昇させ、動脈硬化から心筋梗塞や脳卒中を引き起こすリスクが指摘されています。
逆に、植物油に含まれるリノール酸、リノレン酸などの不飽和脂肪酸は血中のLDL-コレステロール値を下げる働きがあり、循環器病の予防効果が認められています。
ところが、この常識を覆すようなエビデンスが米国の医学専門誌に発表されて問題となっています。これが『トランス脂肪酸問題』です。
脂肪の構成成分である脂肪酸は二重結合を含まない飽和脂肪酸と二重結合を含む不飽和脂肪酸に分けられます。また、二重結合のある不飽和脂肪酸は、水素原子が二重結合の同じ側に付いているシス型と、二重結合の反対側に付いているトランス型に分けられます。
天然の不飽和脂肪酸はほぼ全てシス型で存在しますが、マーガリンやショートニングの製造過程で、液体の植物油を固体化するために水素を添加する際、トランス型ができるのです。
このトランス脂肪酸は必要のない栄養素で摂りすぎた場合、血中コレステロール値を高めて、動脈硬化から心筋梗塞や脳卒中を引き起こすリスクを高めることが明らかにされました。すなわち、植物油由来のマーガリンを摂っても、その成分にトランス脂肪酸が含まれていると、動物脂摂取と同じリスクを背負ってしまうのです。
マーガリンは一般的によく知られているので説明を省略します。ショートニングは、主に植物油を固体化するために水素添加を行い、10~20%程度の窒素ガスや炭酸ガスなどを吹き込みながら練りあわせて製造した無味無臭の食用油脂です。固体状やクリーム状、粉末状のものがあり、19世紀末の米国でラードの代用品として生まれ、クッキーやビスケットといった焼き菓子、パン、アイスクリーム、フライ用の揚げ油などに用いられています。
「食事、栄養および慢性疾患予防に関するWHO/FAO合同専門家委員会」(2003年)によれば、トランス脂肪酸の摂取量を総エネルギー(カロリー)の1%未満にするように勧告しました。それを日本人の平均摂取エネルギーで換算すると、一日当たり2グラム未満が目標値となります。
農水省による「トランス脂肪酸の評価基礎資料調査」(2007年)では、食品100g当たりのトランス脂肪酸含有量の各食品別最大値は、ショートニング31g、マーガリン13g、味付けポップコーン13g、菓子パイ7.3g、クッキー3.8g、クロワッサン3gでした。
トランス脂肪酸が含まれない国産マーガリンもなくはないのですが、表示義務がなく、探し難いのが現状です。予防医学を根ざした菜食を実現するには、現時点では、原材料名にトランス脂肪酸が多く含まれるショートニングと表示された食品の使用は避け、液体の植物油を食するのがより良い方法だと思われます。
NPO法人 日本ベジタリアン協会
日本ベジタリアン協会は、1993年4月設立、2001年2月に特定非営利活動法人(NPO法人)の認証を受けた非営利団体です。「人と地球の健康を考える」をテーマに菜食とそれに関連した健康、栄養、倫理、生命の尊厳、アニマルライツ、地球環境保全、発展途上国の飢餓などの問題に関する啓発や奉仕を目的とし、菜食に関心のある人々に必要な知識や実践方法を広め、共有していくためのネットワークづくりを行なっています。
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