【ベジタリアンを知る vol.15】米国で話題の「グルテン・フリー」を考える
*この投稿は以前発刊していた会報誌『月刊つぶつぶ』より連載シリーズ「ベジタリアンを知る」から一部編集して掲載しています。連載一覧はこちら
執筆:NPO法人日本ベジタリアン協会代表 歯学博士 垣本 充
グルテン・フリーとは?
米国では、People誌の「世界で最も美しい人」に選出されたグゥイネス・パルトロウやヴィクトリア・ベッカム、ミランダ・カーなどのセレブリティが体重や体型維持にグルテン・フリーを行っているという報道から、グルテン・フリー・ダイエットが近年話題となってきました。
今回は、グルテン・フリーについて科学的に解説したいと思います。
グルテン・フリーとは食物からグルテンを除去することで、グルテン・フリー・ダイエットはグルテン除去食と訳されます。
それではグルテンとはどのような物でしょうか?
小麦やライ麦などに含まれるタンパク質のグルテニンとグリアジンを水で捏ねると、粘弾性を持つグルテン(麩質)が形成されます。このグルテンはパンの膨らみを保持し、うどんなどの麺類のコシ(粘り気)をつくります。この特性によってパスタ、クラッカー、シリアルなどの製造に使われています。
グルテン・フリーの問題は、グルテン・アレルギーにより小腸の粘膜に炎症が生じて栄養失調をきたすセリアック病の患者にとっては重大です。この病気は遺伝的な要因が大きく、この患者にグルテン除去食は確立された治療食なのです。
また、グルテンの入った食品を摂取すると下痢などの症状が起こすグルテン過敏症の人にとっても、下痢症状が改善されるなどの利点があります。
ただ、米国では、セリアック病の患者数は約1%との報告がありますが、グルテン過敏症については医学的にはまだ標準の定義も定められておらず、米国における正確な有病者数などの統計もほとんど無い状態です。
ちなみに、セリアック病は白人に多く、有色人種では少ないとされています。我が国で行われた調査では、日本人の患者数は約0.7%と報告されています。
しかし、このグルテン・フリーが米国でここ数年のうちにブームとなったのは、セレブリティがダイエット効果を期待して、この食事法を実践しているとの報道がもとになり、グルテンに対してアレルギー症状がないのに、美容や減量効果への期待や、何となく体調が良くなるという理由で、グルテン・フリーに変えたという人が増加したのが原因のようです。
グルテン・フリー・ダイエットの化学的根拠は乏しい
日本でも数年前からグルテン・フリー・ダイエットが注目されているようですが、科学的根拠については当初から疑問視されていました。その中にはグルテンの入っている小麦を食べると血糖値が急上昇し、それを下げるためのインスリンが過剰に分泌されると、脂肪を溜め込むことで太りやすくなるという説がありますが、むしろグルテン含量の多い小麦の方が消化吸収はゆっくりとなり、血糖上昇が緩やかであることが知られています。
また、グルテン・フリー食材にはパスタに含まれるグルテンを取り除いて、代わりにジャガイモのデンプンを添加するような商品がありますが、デンプンは血糖値を最も上昇させる食品成分の一つで、この説には疑問が残ります。
グルテンを取り除いた食事はアンチエイジング作用があるなど,グルテン除去食が特に必要の無い健康な人に良い効果を及ぼすという説にも、科学的に信頼性の高い報告は確認できませんでした。
セリアック病やグルテン過敏症などの免疫性疾患がない人にとって、グルテンでつくられた日本の伝統食である麩などの穀物タンパクは、納豆や豆腐などに含まれる大豆タンパクとともに、ベジタリアン、特にビーガンにとって有益なタンパク質源の一つだと思います。
NPO法人 日本ベジタリアン協会
日本ベジタリアン協会は、1993年4月設立、2001年2月に特定非営利活動法人(NPO法人)の認証を受けた非営利団体です。「人と地球の健康を考える」をテーマに菜食とそれに関連した健康、栄養、倫理、生命の尊厳、アニマルライツ、地球環境保全、発展途上国の飢餓などの問題に関する啓発や奉仕を目的とし、菜食に関心のある人々に必要な知識や実践方法を広め、共有していくためのネットワークづくりを行なっています。
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