本気の暮らし手とつくり手が手がけた 人と自然を生かす家 いのちのアトリエ
いのちのアトリエとは
つぶつぶグランマゆみことその家族の暮らしの拠点でもある「いのちのアトリエ」は、山形県小国町にあります。
1996年に、半セルフビルドで家族と一緒に建てた48坪3階建ての国産材95%のエコハウスと、6000坪のフィールドを、未来の食と暮らしを創造する場という意味を込めて「いのちのアトリエ」と名付けました。現在は、「未来食ライフラボ/いのちのアトリエ@山形小国」と呼び、合宿型のセミナーやイベントなどを行っています。
山に囲まれた森の中にぽっかり開けた伸びやかな空間にたつエコハウス。そのまわりに広がるのは、雑穀や野菜が豊かに育つ畑。ここには、大地に根ざし、自然と人間が調和して生きる知恵や工夫がたくさん。そして、人が生きることの耀きそのものに気づく豊かな暮らしがあります。
暮らすことを遊び、暮らしから学び、暮らしそのものが仕事になる、そんな暮らし方を提案し、可能性を探究しユニークな試みを実践しています。
1996年に建設がスタートした「いのちのアトリエ」の成り立ちや、暮らしの工夫をお伝えします。
大地に生えているような、生きている家
従来日本の家は、木や土や紙のように土にかえる材料でつくられ、その土地の気候、風土に合った第三の皮膚として、住む人を自然の厳しさから守ってくれるものであり、間取りさえあれば大工が自然に建てることができるものでした。「誰がつくってもこうなるという、作為のない家にしたい」というゆみこたちの想いの沿って建てられた『いのちのアトリエ』も、大地に生えているような、生きている家でもあるのです。
薪ストーブ1台で3階まで温かいほど家の中を空気が循環する仕組みや、排泄物を燃料と肥料にして循環させるバイオガスプラント、木の繊維でできた断熱材、アルミサッシを使わない窓、土間の台所など、多くの「家」からは消えてしまったものが、ここにはあります。
たくさんの幸運な出会いがあって、導かれるように完成!
「人も空気もエネルギーも食べものも、すべてが循環する家。」
『未来食』のコンセプトを家に当てはめた家づくりがゆみこたちの望みでした。ところが、地元の工務店と検討を進めるにつれ、予算の制約などから、輸入材や防虫加工の基礎材を使うしかない状況に追い込まれたのです。
しかし、雪解けを待つ間、幸運な出会いにより状況が一変!ゆみこの生まれ故郷である栃木県足利市で、日本の風土に合う在来工法の家づくりを追求している建築家・丸山純夫さんに出会ったのです。棟上げまでを丸山さんに、その後は自分たちでつくる「セルフビルド方式」を取り入れることで、予算も抑えられ、国産材95%の家が実現することになりました。
木の断熱材がやってきた!
「昔の日本の住宅は、かやぶきやわらぶきの屋根と土壁が断熱材の役割を果たしていた。職人がほとんど消えた今、昔の方法に戻ることはできないけれど、できれば、有害物質の入っていない、身の回りにある循環する素材を使いたい」。
そんな思いを抱いていたゆみこたちの構想に理解を示し、北海道の製材会社が、間伐材をほぐして綿状にした木質繊維の断熱材1トンを無償で用意してくれました。従来の断熱材に比べてリサイクルが容易で、化学物質による人体への影響も心配ないなど、優れた特徴を持ったエコロジカルな断熱材です。
また、ガラス繊維でできた一般的な断熱材グラスウールを使うと、家を壊す時に廃材にガラス繊維が混じって使い物にならなくなってしまいますが、木質繊維の断熱材なら再資源化も容易です。
積雪の多い小国町、冬は温室を「半ば外」に
いのちのアトリエの外観上の最大の特徴は、温室を組みこんだこととも言えるかもしれません。建設当初、完全に温室と家が一体となった空間を造ることを考えていました。しかし、湿度の高い日本では、温室の湿気が家全体を不快な湿度にしてしまうことや、冬の日照時間がほとんどない雪国で温室を造ると、よほど蓄熱の工夫をしない限り、ヒートロス(熱の損失)の方が大きいという問題もあります。
しかし、3メートルもの積雪で覆われる冬の長い小国町では、雪のない広々とした庭が室内にあることは、冬の行動を何倍ものびやかにします。そこで、「建物としては一体の温室部分を、『半ば外』と考え、居住部分との間の戸や仕切りをペアガラスにして断熱を図る」という解決策が導かれました。
11月下旬から2月いっぱいは温室を「雪の降らない外」と考え、居住部分とは完全に遮断します。そして、晴れの続く3月からは温室も生活空間に加わり、雪解けに先駆けて野菜の苗作りもできます。
食事などの生活の場も、初夏や秋には東側のテラス、夏には部屋の北側や北側のテラスや庭、春は温室、真冬はストーブの周りというように、季節とともに居心地のいい場所を見つけるのもアトリエ生活の楽しみです。
アルミサッシは使わない
「採掘の過程で環境破壊を伴い、製造工程で莫大な電力を消費するアルミサッシは使いたくない」「アルミサッシでは呼吸する家は造れない」というゆみこ達の希望に、設計と施行指導を引き受けた建築家の丸山さんは、大いに迷ったそうです。
これだけの建物を全部木製にしたら高価な家になってしまう。そこで、丸山さんがひねり出したアイディアは、中空の断熱用ペアガラスをカットして、枠なしでそのまま使おうというものでした。そして、網戸や断熱戸を含めたその他の建具も窓枠も、すべて素人の手で無理なく手作りできる設計が着々と進められたのです。
食の循環をつなげたバイオガス
いのちのアトリエの大きな特徴の一つに「バイオガスシステム」があります。これは、家畜や人間の排泄物や生ゴミをメタン発酵させて、メタンガスと液体肥料に分解するシステムです。
排泄物をコップ一杯の水で、簡易トイレから地中に建設した直径4mの空気を遮断したドームに送り込みます。このドームでメタン菌が発生し、排泄物はメタンガスと液体肥料になって、残滓を一切残さないほど完璧に分解されます。ここで発生したメタンガスをキッチンで利用しています。
生きている限り、原料の排泄物はなくなることはありません。このシステムはまさにミラクル燃料庫!さらにおもしろいことに、穀物中心の食生活をしている家族の便は、肉食中心で加工品を多く食べる人の便と比べて、メタン発酵が活発で、大量のガスと、窒素過多でないバランスのとれた液体肥料をつくります。食物繊維たっぷりの雑穀食の排泄物の威力に驚きです。
陶管を使い土壌浄化法で排水処理
トイレの処理はバイオガスシステムによって行っていますが、台所や風呂の排水には、土壌トレンチ浄化法というのを使っています。幅60cm、深さ60cmの溝を台形に掘り、厚手のビニールを敷き、その上に砂を10cm、砕石を10cm入れてから陶管を入れます。その周りに陶管のクズを入れて、網戸用の網を二重にはり、その上に畑の土を入れました。
地面の土には無数の微生物が住み着いていますが、表面に近いほうが圧倒的に生物数が多いので、排水を下の方の土に染みこませて地下水を汚染してしまうのではなく、微生物群に処理してもらうという方法です。管の材料には、塩ビパイプではなく陶管を使っています。
たまたま風呂釜の焚口に耐火レンガを頼んでおいた会社に引き取りに行って、大量の陶管を見て、専務さんに土壌トレンチ浄化法で排水処理をしたいと言ったら、120本を無償で提供してくれました。彼によると、塩ビパイプは静電気を帯びて汚泥のようなものがへばり付き、詰まる原因になったりしますが、陶管は全くそのようなことが起きないとのこと。また、素焼きの陶管には微生物が住めるような小さな穴がいっぱいあり、排水の浄化に役立つそうです。
個室のない機能別の家
いのちのアトリエには、いわゆる個室がありません。「自己管理能力のない子供時代に、個室で好き勝手に時間を過ごすと、人間的成長が阻害される」という考えからです。そこで「大人の暮らしぶりを見て、まねて、一人前の暮らし手に育っていくことが大切」、さらには「物は所有すべきものではなく、必要に応じて活用すべきもの」という考え方に基づいて、部屋を生活機能別に分けたのが、大きな特徴となっています。
オフィスでは、大人が仕事をするかたわらで子供たちが絵を描いたり勉強したりするので、同時進行で仕事と子育てができます。納戸は「命のストック庫」、家族みんなで漬物や食品加工を楽しみながら、何が大切な食べ物かが自然に学べる場となっています。「都市の集合住宅では、一軒一軒の家は小さくても、共有のスペースを工夫することはできるはず。その発想の基になる何かを伝えられたらうれしい。」とゆみこ。
↓建物の西側と東側には少しずつ開いてきた畑が3反ほどに広がりました。家の西側は、不耕起栽培の畑にし、自給用の野菜を育てています。東側の広い土地は7色の雑穀畑になり、晴れて「つぶつぶファーム」と呼べるようになりました。