【ベジタリアンを知る vol.5】菜食の生活習慣病予防効果② −心筋梗塞・脳卒中−

＊この投稿は以前発刊していた会報誌『月刊つぶつぶ』より連載シリーズ「ベジタリアンを知る」から一部編集して掲載しています。連載一覧はこちら

執筆：NPO法人日本ベジタリアン協会代表 歯学博士 垣本 充

心筋梗塞、脳卒中と採食の関係

日本人の死因第1位(2013年度厚生労働省人口動態統計)のガンについては前回記事で菜食との関係について説明しました。今回は第2位の心筋梗塞（などの虚血性心疾患）および第4位の脳卒中（などの脳血管疾患）と菜食の関係を取り上げたいと思います。

実は、この二つの病気の死亡率の合計は24.8％で、ガンの数値28.8％に並ぶ高い数値を示しています。言い換えれば、日本人の死因の半数以上がこれらの病気で死亡していて、第3位の肺炎で亡くなる人もこれらを持病としている人たちが多く認められています。

先月号で紹介しましたロマリンダ大学の約2万5千人のベジタリアンを対象にして21年間にわたる種々の病気の死亡率調査では、心筋梗塞、脳卒中の死亡率がともに、ベジタリアンは普通食の人に比べて50%以下の値を示しました。これらの二つの病気は発病に共通の原因が認められています。それが高脂血症から導かれる動脈硬化症なのです。

高脂血症とは、血中のコレステロール値や中性脂肪値が高い「血液ドロドロ」の状態です。

高脂血症は動脈にコレステロールなどの脂質からなるアテローム(粥腫：コレステロール誘導体を大量に含んだ脂質の塊)をつくり、次第に血管を細く弱くしてしまいます。これが動脈硬化です。そして、アテロームが破れると血栓がつくられ動脈は完全に塞がれます。心臓を取り巻く冠動脈でこの現象が起きた場合は心筋梗塞、脳の動脈で起きた場合は脳卒中(脳梗塞)が発症されるのです。

世界的に著名な医学誌の一つである英国医師会誌(BMJ)に掲載された、ビーガン(純菜食)、ベジタリアン(乳卵菜食)、非菜食者(肉食)など約3300名を対象とした血中コレステロール調査では、肉食者はビーガンの約1.2倍、ベジタリアンの約1.1の値を示しました。そして、コレステロールの内でも動脈硬化を促進し、悪玉と呼ばれるLDL−コレステロール値が、ビーガンやベジタリアンは肉食者よりも低いことが報告されています。

コレステロールのうち、LDL−コレステロールは、細胞内に取り込まれなかった余分なコレステロールを血管内に放置して動脈硬化を引き起こすため、悪玉と呼ばれています。一方、HDL−コレステロールは、血管内壁に溜まったコレステロールを集めて肝臓まで運び、動脈硬化を予防するので、善玉と呼ばれています。

ベジタリアンの主要な栄養源の一つである大豆タンパクが善玉と呼ばれるHDL−コレステロール値を高める働きや、大豆やエゴマなどの植物油に含まれるアルファ・リノレン酸などのｎ−3系脂肪酸が血中の中性脂肪値を低下させる作用を有することが明らかにされています。

さらに、コレステロールを原料として肝臓で作られる胆汁酸は脂肪を消化する働きを持っています。十二指腸に分泌された胆汁酸は小腸で吸収されて肝臓に戻りますが、この時、食物繊維がたくさんあると、胆汁酸は吸収されずに排泄されてしまうので、体内の胆汁酸が不足した状態になり、肝臓は新しく胆汁酸をつくるために血中コレステロール値は低下します。

ベジタリアンは飽和脂肪酸を含む動物性脂肪の摂取が少なく、逆に食物繊維の摂取が多いので、血中コレステロール値が低く保たれるために動脈硬化症を予防し、結果的に心筋梗塞や脳卒中発症の危険性を少なくしているのです。

次回は、菜食の生活習慣病効果の総集編として、高血圧症、糖尿病、骨粗鬆症、認知症などを取り上げたいと思います。

NPO法人 日本ベジタリアン協会
日本ベジタリアン協会は、1993年4月設立、2001年2月に特定非営利活動法人（NPO法人）の認証を受けた非営利団体です。「人と地球の健康を考える」をテーマに菜食とそれに関連した健康、栄養、倫理、生命の尊厳、アニマルライツ、地球環境保全、発展途上国の飢餓などの問題に関する啓発や奉仕を目的とし、菜食に関心のある人々に必要な知識や実践方法を広め、共有していくためのネットワークづくりを行なっています。
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