【ベジタリアンを知る vol.29】ヒッピー文化が生み出したニュー・ベジタリアンの誕生
—ザ・ファームは大豆食品の宝庫—
*この投稿は以前発刊していた会報誌『月刊つぶつぶ』より連載シリーズ「ベジタリアンを知る」から一部編集して掲載しています。連載一覧はこちら
執筆:NPO法人日本ベジタリアン協会代表 歯学博士 垣本 充
花のサンフランシスコ
古い話になりますが、1967年に全米ビルボード・ランキング4位にチャートされた『花のサンフランシスコ』(スコット・マッケンジー歌唱)という大ヒット曲がありました。この曲は日本でもヒットしたので、記憶の片隅に残っている方もおられると思います。
ここで、『花のサンフランシスコ』のさわりの部分(著者訳)を紹介しましょう。
もしサンフランシスコに君が行くなら
髪にちょっと花を飾って行くといいよ
そこで心優しい人たちに出会えるから
夏には「愛と平和の集い」があるからね
1960年代のサンフランシスコは、全米からベトナム戦争反対運動を発端とした反戦活動を行うヒッピーと呼ばれる若者が集まり、「愛と平和」を訴えていました。
彼らはフラワー・チルドレンと呼ばれ、そのリーダーはサンフランシスコ州立大学講師のスティーブン・ガスキンで、毎週月曜の夜に「新しい社会の精神的な価値観と展望」(反戦、地球環境保全、人種差別撤廃など)について話し合いを続けました。
大豆を重要視する「ザ・ファーム」
西洋的合理主義の限界を感じた彼らは理想のコミュニティー建設のために、1971年テネシー州サマータウンに「ザ・ファーム」という共同体を作り上げたのです。当時、菜食を行う彼らは特定の宗教に関わりのないことから、ニュー・ベジタリアンと呼ばれました。2014年にガスキンが亡くなった後も、200人ほどの人たちがこのコミュニティーで暮らしています。
「ザ・ファーム」の人たちの根本的な同意事項としては、非暴力・ベジタリアン・質素・財産共有・反原発などを挙げることができます。
彼らの食生活は、肉、魚、卵、牛乳、チーズ、バターなどの動物性食品は一切使わないビーガン食(完全菜食)です。彼らは、穀類と豆、とりわけ大豆を重要視した食生活を送っています。大豆も穀類も野菜や果物も全て彼らの畑で育てたもので、有機栽培、非遺伝子組み換え作物です。
「ザ・ファーム」が大豆を重要視するのは、ビーガンは豆類と穀類を組み合わせて良質なタンパク質を摂りますが、豆類のうち、大豆だけはアミノ酸スコアが100で、タンパク質の完璧な栄養源であることを知ったからです。ザ・ファームのビジネスの欄には、出版やメディアサービスのほかに、ファームソイ(農場大豆)社やテンペ研究所など大豆に関係する事業が表記されています。
「ザ・ファーム」を開所した1970年初めから、彼らは豆腐と大豆食品に興味を持っていました。そして、今までの製法とは違う安定した豆腐づくりの製造法を開発したと言います。ファームソイ社は、有機認証された豆乳、豆腐、豆乳ヨーグルト、豆乳アイスクリーム、大豆チーズ、など多彩な大豆製品を生産・販売しています。
テンペはインドネシアの伝統的大豆発酵食品です。納豆と似ているのですが、淡白な味で臭みはほとんど無く、糸を引くこともないブロック状の食品で、欧米のベジタリアンは好んで食べています。「ザ・ファーム」のテンペ研究所は米国のテンペ文化の初の商業的な生産者でした。
ザ・ファームはプレンティ―というNPO団体を持っていて、途上国への救援奉仕活動行っています。1976年のグァテマラ大地震では60人が復旧に参加、また、アフリカなど途上国で井戸掘りなどの活動を行うなど、彼らの「愛と平和」の活動は止まることがないようです。
NPO法人 日本ベジタリアン協会
日本ベジタリアン協会は、1993年4月設立、2001年2月に特定非営利活動法人(NPO法人)の認証を受けた非営利団体です。「人と地球の健康を考える」をテーマに菜食とそれに関連した健康、栄養、倫理、生命の尊厳、アニマルライツ、地球環境保全、発展途上国の飢餓などの問題に関する啓発や奉仕を目的とし、菜食に関心のある人々に必要な知識や実践方法を広め、共有していくためのネットワークづくりを行なっています。
HP:http://www.jpvs.org/